お店の成り立ち

今回はブレッドハーモニーの代表である僕の経歴と開業に至った経緯をお話しいたします。

最初にパンの道に進もうと思ったきっかけのお話をします。

正直きっかけはここで述べるのが恥ずかしいくらい、浅はかな理由です。

大学時代、仲のいい友人が当時流行っていた移動式メロンパン屋さんを将来やろうと考えていて、パン屋でバイトするという話をしていました。

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当時何もやりたい事がなかった僕はこう思いました。

パン屋さんか。いいな、自分にもできそうだし、やってみようかなと。

タイムスリップできるなら、当時の自分をぶん殴ってやりたいのですが、正直それくらいに思っていました。

そして地元のパン屋さんで少し経験を積ませてもらい、それがきっかけでパン作りの面白さに目覚めました。

大学卒業後、次に探したパン屋さんは神戸のパン屋さんでした。

パンといえば神戸だろうとこれまた大して深く考えもせず、とにかくそう思って神戸のパン屋さんを探しました。

都合よくご縁があり、当時からそこそこ有名だった、ホテル系列のパン部門で働かせて頂くことになりました。

神戸で働き始めてから一番感じたのはパンの世界ってこんなに華やかだったんだ、ということでした。

そこは神戸のパン屋さんだけあって、ひと味もふた味も違った華やかさがありました。

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使う材料もホテル系列だけあって、高級な食材をふんだんに取り入れていました。

結局そこのパン屋さんで10年近く働く事になるのですが、様々な経験をさせてもらい、パン職人として多くのことを学ばせて頂きました。

その後開業前にも数件違うパン屋さんでもお世話になりました。

どのパン屋さんでもそれぞれ違うやり方で、そのお店のカラーがありました。

ここまでが僕の大まかな経歴ですが、今のような安心安全なお店を始めようと思った経緯はまた別の理由があります。

実は僕は、小さいときから体が弱く喘息持ちでした。その影響もあって、大気汚染の問題や森林伐採の問題とか、いわゆる環境問題について昔から関心を持っていました。

その延長線上で大学でも環境問題について勉強していました。そこで特に興味を持ったのが日本の食の安全性についてでした。

当時日本ではBSEや食品偽造の事件が起きたあとで、食の安全を見直そうという動きが盛んな時期でした。僕も自然とそういう事に興味を持ち始めていました。

ある時本屋さんで一冊の本に出会いました。マクロビオティックガイドブックという聞きなれない横文字のその本は食品関連の本棚にありました。すでに日本の食の安全性に疑問を持っていた僕は好奇心からその本を買い、その時初めてオーガニック(有機)という概念を知りました。

そもそもマクロビの実践法に関する本だったのですが、僕はこの本に出てくるオーガニックという概念がひどく気に入りました。マクロビも少し学んだのですが、肌に合わないと感じたので、すぐに断念しました。以来オーガニックについて密かに調べていくことになりました。

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なぜ密かになのかというと、当時オーガニックという言葉自体がまだまだ普及していない時代だったからです。僕は実際は変わり者なんですが、その当時はまだ若く見栄もあって変な奴に見られたくないと思っていた訳です。

そんなこんなで月日は流れていった訳ですが、それと比例するように僕のオーガニックに関する知識量も増えていきました。

すでに神戸のパン屋さんで働いていた僕はある時、上司にお店を開くならどんな感じの店にするの?と聞かれたことがありました。

その時オーガニックでパンをやってみたいという思いがピークに達していたので、ついに勇気を出して自分のしたいことを言いました。

するとその上司はこう答えました。

それはやめたほうがいい、オーガニックは大変だぞ。儲からないし、それに縛りを作ってしまったら自分の首を絞めることになるぞ。そりゃあいいもん使ったら誰でも美味いもん作れるよ。あまいよ。

自分の考えをいきなり全否定されたので、正直腹が立ちました。この人は一体僕の何を知っているんだと。

しかし、冷静に考えてみると確かにそれも一理ある気がしました。そして現実的に実現可能かどうか調べてみると先輩の言う通りでした。

材料費は一般の材料の3倍以上。種類は限られているし。そもそも品質も安定しにくい。極め付けは日本ではオーガニック文化が浸透しておらず、需要が見込めないということでした。

しかし、僕にはひとつ大きな頼みの綱がありました。オーガニック100%でやっている人気店があることを知っていたからです。

そのお店は東京の青山にあったアコルトというお店でした。オーナーはサラリーマン時代にアルコール依存症に苦しんだそうですが、マクロビオティックの食事法を取り入れたことで克服し、オーガニックとマクロビのお店を開いたのような方です。

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当時の僕からしたら憧れのような存在でした。

すがるような気持ちでアコルトを調べ直してみました。

ところが、驚いたことにオーナーが若くして急逝し閉店していたのです。

その瞬間、上司の言った言葉が頭をよぎりました。それほどまでにオーガニックは大変なのか。頭の中が真っ白になりました。

そのショッキングな出来事以来、僕はオーガニックを心の奥底に封印するようになりました。

実は、原材料はオーガニックで揃えるのがベストだと思っていましたから、一般的な原材料にはほとんど興味を持てずにいました。それどころかオーガニック食材を使いさえすれば、そんなにあれこれ手を加えなくともいいものができるはずだと考えていました。

僕は材料頼りで肝心の製パンの理論を学ぶことを怠っていたのでした。

それから僕はパン作りについて改めて勉強し直しました。考え方を180度変えました。普通の材料でいかに美味しいパンが焼けるか。そこだけを考えるようになりました。

製法を変えてみたり酵母を変えてみたり、暇を見つければ試みました。特に神戸のパン屋さん時代の後期は試作に明け暮れていました。すでに立場的には上の位置にいましたから、若い子たちは忙しい中毎日試作するこの人は正気の沙汰じゃないと思っていたことでしょう。

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今思えばそんなことが自由にやれる職場環境は恵まれていたのかもしれません。

ようやく自分なりの理論を持てるようになってきたのは、神戸生活も終わる頃でした。

丁度その頃僕ら夫婦にとっての第二子となる男の子が誕生しました。そしてこの子の存在がのちに、僕のパン作りの方向性を決定づけることになります。

色々な製法を試すうちに僕はパンを膨らます酵母というものがパン作りにとって重要な要素であり、差をつけるのであれば、そこしか無いと考えるようになりました。

いろんな素材から自家製で酵母を作り、試作を繰り返しました。そして味と生産性の観点から最適な酵母を模索しました。

最終的にたどり着いたのはイーストと自家製酵母を併用するという選択肢でした。

しかし一般のイーストでは酵母の力が強すぎて素材(主に小麦)にイーストが勝ってしまう。イーストの使用量を極端に減らしてみたり、イーストでもいろんな種類がありますから、いろいろ試しました。

そしてたどり着いたのはなんと、オーガニックのイーストでした。

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オーガニックイーストはそこそこ安定性はありながら、驚くほどクセがありません。その為、素材本来のもつ個性を邪魔しえ無いのです。

特に材料の大半を占める小麦粉に関してそれは躊躇に感じ取ることが出来ました。小麦粉本来のもつ香りなどをダイレクトに感じ取る事が出来るのです。

 

一般的なイーストに比べると値段も高価ですが、それを上回るほど価値あるものだと感じました。僕はこのオーガニックイーストをベースにすることを決めました。

奇しくも別のベクトルで追求したはずが、封印していたオーガニック素材にたどり着いたのです。

ならば他の素材もオーガニックにしようかと一瞬迷いましたが、その時点ではまだそこまでの決断は出来ずにいました。

そんなある時、産まれて数ヶ月の子供の肌荒れがあまりにも酷かったので、アレルギー検査を受けることになりました。その結果、乳・卵アレルギーであることが分かりました。

うちの子は幸いにも重度のアレルギーでは無いようなのですが、それでも毎日気が抜け無い日々です。食事は僕らとは別メニューで与え無いといけ無いし、肌が弱く肌のお手入れの為に保湿クリームを一日に何度も塗らなければいけません。

かゆくなるとご機嫌が悪くなり、指で掻きむしったり、顔をいろんなところに擦り付けたりします。そうするとどんどん悪化するので、常に目を離せ無い状態です。毎日驚くほど四苦八苦しています。一人目はアレルギーもなかったから尚更の事そう感じるのかもしれません。

アレルギーの子供が増えているという話は聞いていたし、知人の子供がアレルギーで大変という話を聞いてはいましたが、正直なところ他人事でした。恥ずかしい事に実体験をもってして初めてアレルギーの大変さがよく分かりました。

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アレルギーやアトピーの子がこれだけ増えた原因ははっきりと言及されていませんが、農薬や添加物、遺伝子組み換えなどの科学的に作られた物質が影響しているという専門家も大勢います。

当たり前ですが、子供は大人よりも過敏であり影響を受けやすいため、特に直接体に触れたりするものや、体内に取り込むものに関して細心の注意を払う必要があります。今まで自分だからいいやと思っていたことが、そうもいかなくなりました。

これは家族を持って初めて気づいた感覚ですが、人は自分の為と考えるよりも、自分以外の何かの為と考えた時の方が、自然と何倍も頑張れる。万人がそうではないかもしれませんが、少なくとも僕はそうでした。

そんな毎日に追われる中で、僕のパン作りの方向性も徐々に固まってきました。

子供にも安心して食べさせられる材料を使うべきだ。ならばオーガニック素材を積極的に使うべきだろう。そう心の中で思うようになっていきました。

もう一度原点に立ち帰ってみよう。木立

子供たちの存在は、僕が食に携わる人間として持つべき、最も大切な意識を再認識させてくれました。

それからはもう迷うことはありませんでした。(ちなみに業界の関係者、同業者にそれを言うと何故か猛反対し応援してくれないので、あまり言わないようにしています。)

ふと自分の周りを見渡しても食の安全性に関心がある人が増えてきていることに気が付きました。日本国内のオーガニック需要も随分と増え、それだけ人々の食や健康に関する意識が高まって来ているのでしょう。

まだまだ一般の食卓には並びにくい価格設定ですし、それがいまいち普及しきらない大きな原因でもあります。

オーガニック食品は量産しにくいものである以上、ある程度は値段がするのはある意味当然です。しかしながら、欧米のオーガニック先進国をみる限りでは、もっと需要が増え、マーケットが大きくなれば、まだまだ一般的になっていく可能性は十分にあります。

ファストフードやコンビニのようにお手軽で安く手に入れるのは難しいかもしれません。けれどもいつか安全なものが高級品としてじゃなく、少し手を伸ばせば食べられるレベルになる日が来て欲しいと切に願っています。

私たちは安全で美味しいパンを提供したいという想いのもとお店を運営しています。そしてそれを目指す上で、オーガニック食材は欠かせないものとも思っています。

日本食ブームの火付け役でもある有名なマクガバンレポートでは、日本の元禄時代以前の食事こそ理想とされました。元禄時代とはつまり300年以上前の江戸時代の話です。

さすがにそれをそのまま現代社会に置き換えるのは無理がありますが、よく考えれば昔のその時代に化学肥料や農薬など無く、当たり前のように口にする食材そのものがオーガニックだったのです。

私たちは文明の進化により、本当に便利な世の中になりました。しかし同時に、当たり前のことや大事なことを忘れてしまったのかもしれません。d75378ad6e82b10896f5c4fa572821a2_s

オーガニック食材は安全面がクローズアップされがちですが、美味しさの面でも非常に優れているものです。

ブレッドハーモニーのパンを通じて、そういった部分を少しでも感じてもらえればとても嬉しいことです。

そしてそれが安全な食文化の普及に繋がっていけば、これほど嬉しいことはありません。

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